歯科医師からeスポーツ、そして就労支援へ。異色のキャリアを歩む柴田先生が語る、「好き」を起点とした支援の可能性とは。
歯科医師からeスポーツ、就労支援への道のり
小川(Jin)
柴田先生は本業が歯科医師でいらっしゃいますが、そこから就労支援を始めようと思われたきっかけをお聞かせいただけますか?
柴田先生(CYATH)
そうですね。まず、歯科から就労支援というよりも、歯科からeスポーツの方が先だったんです。噛み合わせのバランスを調整することによって集中力が高まるという研究をしている昭和大学というところがありまして。その大学の研究に僕が関わったのがきっかけです。その中で、eスポーツというところに僕はもともとゲームが大好きだったので惹かれまして。
その研究会に入ってからeスポーツの仕事を始めたのですが、研究するにしても愛媛県は田舎なので、eスポーツイベント自体が少ない。「それなら作ってしまおう」ということで、eスポーツイベントの企画運営の仕事を始めたんです。そこが起点ですね。
就労支援については、昔から結構考えていました。というのも、私の弟が小さい頃から障がいを持っていまして。3歳か4歳ぐらいから大きな手術を受けたりして、結局今は半身不随で車椅子なんです。そういった弟の友達も障がいを持つ方が多く、彼らが就労支援事業所でどんな仕事をしているか、いつも話してくれていたんです。だから、自分でもそういう支援の仕事ができるんじゃないかと。
そこで思いついたのが、「eスポーツで就労支援をする」というスキームです。「これはいけるんじゃないか」と。
「得意な分野を伸ばす」eスポーツの力
小川
一般の方の中には「ゲーム」と「eスポーツ」の違いがよく分からない方も多いかと思います。柴田先生のお話ですと、eスポーツは頭脳のスポーツであり、目的があるからこそコミュニケーションが生まれるなど、従来のゲームとは違う側面がたくさんあると感じます。eスポーツを就労支援に選ばれた、その思いについてお聞かせいただけますか?
柴田先生
従来の「ゲーム依存症」という言葉が一時期流行って、我々も今も少し苦労しているのですが、eスポーツは基本的に「スポーツ」なんです。競い合う相手がいて、その技術を高めるために切磋琢磨するというプロセスが自分の中に生まれる。だから努力できるし、チーム戦だったらコミュニケーションを取らざるを得ない。うまくコミュニケーションが取れるようになれば、レベルアップしていく。そういう考え方なんです。
つい先月、日本スポーツ協会の中にeスポーツが正式に「スポーツ」として認められました。他のスポーツと同じように、チームワークを使うことができる。それこそ、社会で必要なスキルを身につけることができるという点で、eスポーツはいいなと。
普段、就労支援に通っている人たちの話を聞くと、どちらかというと「できそうなことをさせる」という考え方が主流です。でも、eスポーツやゲームは発想が逆で、「得意な分野を伸ばす」というのが一番なんです。ゲームやeスポーツに関心があったり好きな人たちって、実は高度な戦略思考を持っていたり、瞬発力があったり、チーム戦に強かったり、面と向かわなければコミュニケーションが取れたりする。
そういった人たちのスキルは、現代のIT業界で最も求められるスキルの一つなんじゃないかと思い、eスポーツを通じた就労支援が社会参加への一助になり得るんじゃないかと考えて始めました。
バリアフリーなスポーツとしてのeスポーツ
小川
まさしく「バリアフリーなスポーツ」ですね。以前、柴田先生が「健常者と障がい者が境目なく交流できるスポーツがeスポーツ」とおっしゃっていて、その通りだと感じました。国境も、性別も、年齢も超えますし。CYATHさんでも、健常者の方と障がい者の方がeスポーツで交流されたりするんですか?
柴田先生
はい、やっています。実際、指導員になっている子たちも、もともとゲームが大好きな子が集まっているんですよ。「eスポーツを題材にしている就労支援施設」という珍しさもあって、「そういうところに仕事口があるんだ」と思って来てくれました。
障がいのある方でも、例えばフィジカルは弱くても、闘争心があって競い合うことが大好きな子って、eスポーツで輝くんです。インクルーシブ(包摂的)ということを考えると、総合的に見て一番適しているのはeスポーツなのかなと思って選んだ、ということがありますね。
コミュニケーションの扉を開くeスポーツ
小川
そうすると、CYATHさんでは「得意な分野を伸ばす」という点や、eスポーツをきっかけに「コミュニケーションを生む」という点を重視されていらっしゃるのでしょうか。
柴田先生
そうですね。利用者さんの目線で言うと、印象的なエピソードがあります。最初は週に1日から利用を始めた方で、面談の時は全く発言しなかったんです。親御さんや保護者の方が2時間ぐらいずっと喋るんですが、ご本人は一言も喋らない。その方が、最初は1日のうち2時間ぐらいからゲームを始めたところ、指導員とゲーム越しだとコミュニケーションが取れるようになったんです。それが週に1日になり、2日、3日となり、今では毎日来ていて、普通にコミュニケーションが取れるようになりました。
そういった姿を見ていると、ここに来るのが楽しい、ゲームでコミュニケーションが取れるようになった、さらにそれを社会参加につなげていける、というのはすごくいいところかなと思っています。
小川
確かに、引きこもりの方が外に出るきっかけは何でもよくて、とにかく一歩外に出てほしい。その先にCYATHさんのような素晴らしい施設があると、eスポーツをきっかけに「就労」という未来が見えてくる。すごくきれいなストーリーだなと感じます。
柴田先生
引きこもりのお話で言うと、松山市の北側に今治市というところがありまして、そこで十数年前から引きこもり支援をされている看護師さんがいらっしゃるんです。NPO法人を立ち上げて、子どもたちのためにゲームでコミュニティを作り、勉強の場も提供している。訪問看護もされているのですが、その方が言うには、「中学校を卒業するまでは支援ができるけれど、義務教育が終わる高校生になった時に支援ができなくなる」と。
そのタイミングで、CYATHのような就労支援施設があれば、ゲームが大好きで集まってきた子たちが、社会にはまだ出られないけれどコミュニティを形成できる。そうすればずっと支援ができるんじゃないか、と言っていただいて。なるほどな、と思いましたね。義務教育が終わると放り出されてしまう。その受け皿としてCYATHが機能できれば、大人になっても支援を継続できる。
IT技術と社会のギャップを埋める
小川
eスポーツが、当事者の方々にとっては社会とつながるための唯一のパイプになっているのかもしれませんね。
柴田先生
そういう方はいるでしょうね。やはり時代的にDXが進んでいく中で、従来の就労支援、例えば袋詰めといった作業をしていると、社会との乖離が生まれてしまいます。今、そんなことをしていても社会には出られない。
一方で、eスポーツが好きな子はIT系に強い子が多い。集中力があって、ゲームなら頑張れる。そういう子たちにITスキルを学んでもらうんです。うちはeスポーツで人を集めていますが、来ている人にはOfficeを使ってもらったり、文字の打ち込み作業で工賃を稼いでもらったりもしているので、デジタル系にかなり特化しています。箸の袋折りとは全く違います。
そのITスキルを磨くことによって、リモートでできる仕事もありますし、それこそ今の時代にあった就労支援になっているんじゃないかなと。
小川
ホームページを拝見すると、eスポーツに特化されている印象を受けましたが、それ以外にもITスキルの支援に力を入れていらっしゃるんですね。
柴田先生
そうなんですよ。ホームページは特徴を持たせないといけないと思ってああいう出し方をしていますが、実際は今の社会にあった支援をやっているんだよ、というところを伝えたいですね。
就労支援現場の3つの課題とAI活用
小川
では、実際に就労支援の現場で、何か課題に感じられていることはありますか?
柴田先生
現場目線での課題は3つあると思っています。AIを導入させてもらった理由にもつながるのですが、1つ目は、これまでの事業所の形態だと支援が画一的になりがちで、もう限界が来ているということです。障がいの種類や個性は一人ひとり違うのに、支援の形が画一化されやすい。
2つ目は、事務作業の多さです。支援とは直接関係ない書類作成に時間が取られすぎていて、サビ管さんが言うように、「もうちょっと利用者さんに関われませんか」という状況が生まれてしまう。一日の仕事が書類作成で終わってしまう、というのは大きな課題です。
そして3つ目は、社会とのギャップです。施設内での活動と、実社会で求められるスキルに隔たりがありすぎて、何を支援しているのか分からなくなってしまう。
CYATHではこれらの課題に対して、事務作業の増大化にはAIを導入し、スキル獲得についてはeスポーツを通じて素養のある人を集め、好きなIT技術を伸ばしていこう、と考えています。
小川
その3つの課題はすべて、「一人ひとりに向き合って最適な支援をしたい」「寄り添って背中を押していきたい」という思いの表れのように感じます。そういったところが、AIを導入いただいたきっかけにもつながっているのでしょうか。
柴田先生
そうですね。あとは、人的リソースをどう有効活用するかという点です。サビ管さんの手が空いてくると、その分、利用者さんにかけられる時間が増えるわけです。これまで5人にしか手が回らなかったのが10人に当たれるようになれば、より良いサービス、より良い教育ができます。教育が行き届けば、それぞれの成長につながりますから。そういったことを総合的に考えて、AIの導入は良いことだなと思って進めさせていただきました。
AI導入による具体的な効果
小川
サビ管さんや支援員さんが本来集中すべきことに1秒でも長く集中していただくために、事務作業をAIの助手が手伝っていく、という形ですね。
柴田先生
はい。実際に導入した結果ですが、まだ導入段階で試行錯誤は必要ですが、その分、作業は省力化されているようです。サビ管さんが言うには、もう一人育てているサビ管に教える時間を作れるようになったし、自分自身もサビ管業務だけに集中するのではなく、施設の管理者という立場の仕事もできるようになるから、今回のAI導入はすごく良かった、と。やはり一番のコストは「時間」なので、そこをいかに効率化するかが課題でした。それがクリアできてきたのが一番大きいですね。
小川
人の魅力を最大化するためにテクノロジーを使う、というのが生きたテクノロジーの活用法だと私たちも考えています。それが利用者さんの笑顔につながり、支援員さんの笑顔、経営者さんの笑顔につながっていく。そんなふうに循環していけばという思いでやっているので、今のお言葉はすごく嬉しいです。
柴田先生
パーセンテージで言うと、今のところ70%ぐらい時間短縮できている、とは言っていましたね。
管理者としての仕事ができるようになってきたことと、やはり利用者さん一人ひとりとの対話の時間が増えるというのが、サビ管さんも「いいですね」と言ってくれています。導入してよかったです。
業界全体の構造的な課題
小川
では次に、柴田先生が経営者目線で感じられる、就労支援業界の課題はありますか?
柴田先生
B型就労支援事業所の業界全体に言えることかもしれませんが、工賃や報酬の体系が、利用者さんの平均工賃に連動する形になっています。これが残念ながら、短絡的な作業効率をアップさせることを重視する方向、つまり単純作業をいかに素早くこなすかという、ロボットのような形に誘導してしまっているんです。本来であれば、社会参加も含めた長期的な視点を持って、利用者さんの「好き」や内に秘めた自己実現を支援すべきなのに、目先の工賃だけに注力せざるを得ない。そこに矛盾を感じますね。
もう一つは、業界自体がイノベーションを起こしていないことです。ほとんどの施設が、十数年前と同じような作業内容を提供していると思います。一方で社会は、特にDXの波で急速に変わっている。事業所自体がその波に乗り遅れているんです。結果として、利用者さんが身につけるスキルが実社会では求められず、社会参加のハードルを高くしてしまっている。これは考えるべきところだと思います。
障がい者eスポーツの未来を創る
小川
そこを踏まえて、CYATHとしての今後の展望があればお聞かせいただけますか?
柴田先生
今ちょうどeスポーツ業界は急激に成長していますが、障がい者自体の参画はまだまだ少ないのが現状です。ほとんどないと言ってもいい。私たちは8月にも、愛媛の障がい者施設に参加してもらってオンラインの大会をするのですが、自分たちがCYATHなどを通じてeスポーツを障がい者の方にも広げていくことで、将来的には障がい者の方がプロのeスポーツ選手として活躍したり、我々がやっているイベントのプロデューサーとして活躍してくれる人が出てくるような、そんな未来を作りたいなと思っています。
AIの力を借りながら支援の質を高め、一人でも多くの人に、自分らしい仕事や働く喜びを感じてもらい、「この業界だったらいけるぞ」と社会参加をしてもらえるような未来になってほしい、というのが展望ですね。
他の施設への提言
小川
そのお話は、他の支援施設さんへの助言にもつながる部分かと思いますが、改めて、もし他の施設へ助言があるとすれば、どのようなことでしょうか。
柴田先生
うちがeスポーツやゲームを使っているように、利用者さんが「好き」なことを起点にして仕事にするといいかなと思います。そして、AIのような新しいテクノロジーを怖がらずに活用していくことですね。それによってスタッフたちも、より人間味のある、質の高い支援に集中できるように、効率化できる部分は積極的に効率化していくべきです。
AIが出てきた現代において、そういった新しい技術と融合しながら施設運営をしていけば、利用者さんのためにもなるし、一人ひとりのことを考えられる施設になっていくんじゃないでしょうか。一緒にやっていきたいと思いますね。
3つの最先端支援と利用者・家族へのメッセージ
小川
ここまでお話をお伺いし、CYATHさんは3つの意味で最先端の支援をされていると感じました。1つ目はeスポーツというバリアフリーなスポーツで幅広いきっかけを作られている点。2つ目はIT技術の教育で社会とのギャップを埋めながらサポートされている点。そして3つ目はAI活用で支援員さんの時間を生み出し、人にしかできないケアを後押しする新しい福祉を実現されている点。この3つを駆使して、利用者さん一人ひとりの背中をぐっと後押しされているのだなと。
そんな柴田先生から、最後にこれから就労支援の利用を考えている方や、そのご家族に向けてメッセージをお願いできますでしょうか。
柴田先生
当事者である利用者さん本人が「好き」だと思っていること、得意なことは、eスポーツに限らず、必ず社会で生かせる場所があるんだよ、ということをお伝えしたいです。従来の「障がい」という、何か欠けているような概念にはとらわれたくない。一人ひとりの強みや可能性に着目した支援が広がっていけばいいなと思って、CYATHをやっています。
特に今のデジタル社会においては、これまで障がいと見られていた特性、例えば非常に集中する力などは、むしろ強みになり、その特性が発揮される場面が増えてくると思うんです。AIの開発などもそうかもしれません。
そういった方たちに、CYATHはいつでも扉が開いています。eスポーツやゲームだけでなく、デジタルスキルに強い指導員も揃っていますので、そういったものを見つけたい方や、新しい形の社会参加を模索しているご家族の方がいらっしゃれば、ぜひ一度見学に来ていただきたいなと思います。AURAの力も借りながら、一人ひとりの「好き」や「得意」という可能性を最大限に引き出すお手伝いをさせてもらいたいです。
まとめ:新時代の就労支援が示す可能性
このインタビューを通じて浮かび上がったのは、従来の枠組みを超えた革新的な就労支援の姿だった。eスポーツという「バリアフリーなスポーツ」を入口に、IT技術の習得で社会とのギャップを埋め、AI活用で支援員の時間を創出する。この3つのアプローチが組み合わさることで、利用者一人ひとりの「好き」や「得意」を最大限に活かした支援が実現されている。
「障がい」を欠けているものと捉えるのではなく、デジタル社会では強みとなる特性として再定義する柴田先生の視点は、就労支援業界全体に新たな可能性を示している。
テクノロジーと人の温かさが融合した時、真の意味でインクルーシブな社会参加が実現するのではないだろうか。


